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2011年12月29日
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東京大学医科学研究所ヒト疾患モデル研究センター 金井芳之 助教授セミナー

題目:「ヌクレオソームと自己免疫」


はじめに
 演者は長年膠原病とくに全身性エリテマトーデス(SLE)の発症因子に興味を持ちその解明のための免疫・ 生化学的研究に携わってきた。なかでもSLEの診断・病態のホールマークと云われる抗DNA抗体(この抗体には大別して2種類ある。 ひとつは二本鎖に対する抗体、他は一本鎖に対する抗体である。前者抗二本鎖DNA抗体はSLE病態に特異的で、 したがって今日の話で取り扱われる抗DNA抗体は全て抗dsDNA抗体を意味する)の産生機構の解明は大きな興味の対象であった。 SLEモデルマウスの研究から抗DNA抗体産生増強因子で、DNA/Mg2+結合タンパク質(ヌクレオバインデインNuc ) を同定した。 Nucは生体内で胸腺細胞にアポトーシスを誘導、血中ヌクレオソーム(NS)の上昇をきたすことが分かった。 最近欧米のリウマチ関連学会や雑誌でNSや抗NS抗体が話題が沸騰しているが、ヒトNucと大いに関係あることが窺える。 しかし本邦に於けるそれらに対する取組みは皆無に等しい。いったい抗NS抗体と抗DNA抗体とはどこが違うのかひとえに これからの研究にかかっている。演者はSLEモデルマウスの系で抗DNAモノクロナール抗体の作製に成功したが、 その精製行程でアポトーシス由来のNSの単離にも成功した。この手法は細胞核クロマチンからの高純度NSの精製を可能にした。 同時に高純度NSはそれに対するSLE患者の免疫応答の測定を可能にし、SLE患者病態のさらに詳細な解析をも可能 ならしめるであろう。以上の経緯について少し話してみたい。

SLE病態の解明に対する疾患モデル動物の貢献度
 SLEに出現するような抗DNA抗体は実験的に産生できないことが古くから知られていた。 従ってその実験的病因解析が不可能であったが、米国のジャクソンラボラトリーから比較的早期にSLE様病態を発症する MRL/lprマウスが開発されたのを契機に抗DNA抗体とSLE病態とについての研究が進展した。演者らは当該マウスから、 抗DNAモノクロナール抗体(2C10)の樹立に成功した。 DNAのエピトープマッピングには成功しなかったものの、 そのハイブリドーマ上清からの抗体精製過程でヌクレオソーム(NS)を得るという幸運に恵まれた。これが契機となり、 ヒト前骨髄性白血病細細胞株HL-60クロマチンから極めて効率がよく且つ迅速なNS精製法を樹立することができた。 この方法はNSモノマーを選択的抽出、かつ高純度でありながら、 Kornbergが1974年に樹立した蔗糖密度勾配超遠心法より、 はるかに簡単な手法となった。一方で当該マウスから樹立されたリンパ系細胞株の培養上清から抗DNA抗体産生増強因子 ヌクレオバインデイン(Nuc) を同定、その組み換えタンパク質は生体内投与で抗DNA抗体を始めとする 自己免疫関連抗体を誘導することが明らかにされた。 NucはDNA結合はもとより、EF-ハンドを二つ持ち、 強力なCa2+タンパク質であることをわれわれが明らかにしていたが、 G-タンパク質と会合することも突き止められた。 以上の発見で、Nucが自己免疫病態と深いつながりのあることが明らかにされたことからNuc遺伝子の破壊が 当該マウスにどのような影響をもたらすかNuc-KOマウスの作製を行った。想像とは裏腹に重症型の壊死性血管炎や 糸球体腎炎が頻発し、血管炎モデルとしては有用であるが、学理的には説明不可能な難問が残された。しかしNuc-KOマウスは、 その珍しい病態解析から新事実の発見または創薬につながる期待は大いに存在する。

抗クロマチン抗体としての抗NS,抗クロマトソーム(CS)抗体
 冒頭で述べたように、抗DNA抗体にかわって抗NS抗体がSLE発症・病態との関連において注目されている。 しかし本邦ではこの種の研究は皆無に等しいといえる。幸い先の手法で得られたNS、さらには別途精製したヒストンH1 とから再構成したCSがえられたので、それらに対するSLE患者の免疫応答を抗NS抗体と並行して調べるることが可能になった。 まだSLE症例が少ないため、抗NS抗体が抗DNA抗体と全く独立に存在するか、云われているようにSLEの早期診断に有効なのか、 また抗NS抗体がSLEの特殊な病態例えば、腎炎、血管炎、中枢神経障害などとの特別な関係の有無は今後の検索を 待たねばならない。一方でNSにヒストンH1が結合したCSに対する免疫応答については国内外を問わず調べられていない。 今回はじめてSLE で抗リン脂質抗体症候群(APS)を発症した所謂二次性APS患者で抗CS抗体価が上昇している 傾向を見い出した。本症例では同時に抗ヒストンH1抗体も上昇しているが、ヒストンH1抗体は抗CS抗体とは交叉しないことが分かった。 両抗体の上昇と二次性APSとの関連についての学理的根拠はまだ不明であるが、ヒストンH1がクロマチンとは 無関係にたとえば神経系、消化管などにも発現されていることなどから、CSはもとより、ヒストンH1の詳細な研究は 新領域学問の発展に寄与すると考えられる。

おわりに
 クロマチンとくにNSの歴史は古い。自己免疫との関係も含め、その研究の多くを時間の関係で割愛したことをお許し願いたい。 NSは146bpのDNAとコアーヒストン(H3,H2A,H2B,H4タンパク質からなる8量体)で形成される円盤状物体である。 ゲノム研究やポストゲノム研究、プロテイオミックスなど注目の的になってはいるが、NSはその根幹をなすものであって、 かつ構造が繊細複雑であるためポストゲノム研究で簡単には攻略できない側面を多く有している。 NSの研究は 自己免疫に留まらず、広く癌化、老化の側面からもますます発展する領域といっても過言ではあるまい。

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